
NHK「みんなのうた」で話題になった『やまんばマンボ』をきっかけに折坂悠太さんの音楽に魅了され、2ndアルバム『平成』ですっかり沼にハマってしまった私。
その勢いのまま、3rdアルバムである今作『心理』も手に取りました。
今作はより自由で、聴くほどに味わいが増すスルメ盤でした。
今回はそんな『心理』の全13曲をじっくりレビューしていきます!
折坂悠太のサードアルバム『心理』とは?
アルバム『心理』は、2021年にリリースされた折坂悠太さんの3rdアルバム。
制作は2019年冬に始まったものの、新型コロナウイルスの緊急事態宣言の発令でレコーディングが中止になったそうです。
前作「平成」は、「このメロディーやリズムの背景にはあの名曲(財津和夫さんの童謡など)があるのかな」とルーツを想像しやすい作品でした。
ですが、今作「心理」はそういった音楽的なお約束や型から解き放たれています。
何度も繰り返し聴き込む中で、まずその圧倒的な自由さに打ちのめされました。
折坂悠太『心理』全13曲レビュー
1曲目「爆発」
コントラバスから静かに始まるバンドサウンド。
「水面が揺れている」という2回目のAメロで聴こえるパーカッション(コンガでしょうか?)が心地よく響きます。
「例えを拒んでいる」という一節は、まさに分かりやすいパターンや文脈から自由になっているこのアルバムそのものを象徴しているかのよう。
主題と思われる「もういいかい」が、ファルセットの歌声のせいか「もういっかい」にも聴こえます。
小さな「っ」が混ざることで、曲全体のグルーヴ感がグッと増すのがたまりません。
2曲目「心」
例えばおれは、いつかの蜂
引用:折坂悠太『心』(作詞:折坂悠太)
という強烈なフレーズで始まります。
前曲で「例えを拒んでる」と歌っていた直後に、堂々と「例えば」と来るこの反転。
この一言で一気に耳を奪われます。
歌詞カードにない間奏部分でも、唸るように「例えば」と繰り返す執念のような歌唱に引き込まれます。
内容は、砂漠にやってきたバンドを巡る歌です。
「少しは笑ってくれるかな」という歌詞が頭から離れず、「砂漠で演奏したら楽器に砂が入って大変そうだな…」と思って調べてみたところ、インタビュー記事を発見しました。
アウシュヴィッツ強制収容所から着想を得て作ったというエピソードを知り、自分の作品の背景や狙いをここまで誠実に言葉にしてくれる姿勢に、深く胸を打たれました。
3曲目「トーチ」
イントロなしで、いきなり
街はもう変わり果てて
引用:折坂悠太『トーチ』(作詞:折坂悠太)
と歌からスタートします。
このフレーズを聞くと、どうしてもコロナ禍のあの独特な空気感を思い出さずにはいられません。
曲全体を包む穏やかなバンドサウンドの中で、間奏に響くハンドベルのような高音(トイピアノでしょうか?)が切なく耳に残ります。
4曲目「悪魔」
タイトルで身構えさせられますが、「悪魔のふりをして」という歌詞の通り、少し背伸びをしたような可愛らしさがある楽曲です。
どこか「新しい学校のリーダーズ」の「オトナブルー」を連想させます。
エキセントリックなギタープレイが秀逸で、ハードロック調の激しいソロは東京事変の長岡亮介(浮雲)さんがギターを弾き倒している姿が目に浮かぶほど。
「戦争」という強い言葉も出てきて、社会のあり方に視点を向けた強いメッセージ性を感じます。
5曲目「nyunnen」
ガットギターの落ち着いたインスト曲です。
タイトルは「入念」という意味だとインタビューで知り、妙に納得しました。
6曲目「春」
コントラバスの音がずっと心地よく跳ねています。まるで楽器自体が歩いているかのようです。
確かじゃないけど春かもしれない
引用:折坂悠太『春』(作詞:折坂悠太)
この一行が、本当に深い。
コロナ禍で感染者数のニュースを見ながら、「もうすぐ落ち着いて『春』が来るのかな」と期待しては裏切られていたあの感覚。
「確かじゃないけど」
当時のもどかしい気持ちを見事なまでに言い当てられていて、胸に刺さります。
7曲目「鯱」
このアルバムを買い、1周目を聴いた時に一番の衝撃を受けたのがこの曲でした。
あまりの凄さに感情が追いつかず、その時のリアルな興奮と熱量をそのまま書き殴ったレビューを別記事にまとめています。
折坂悠太というアーティストの底知れない沼にハマる理由がきっと伝わるはずですので、ぜひあわせて読んでみてください!
▼1周目で衝撃を受けた「鯱」のリアルな感想・考察記事へ▼
8曲目「荼毘」
言葉の韻の踏み方が見事で、歌詞がすんなりメロディーに乗って流れていきます。
「夕凪」と「大通り」と「えれじぃ」。
「東海道」と「山陰山陽」と「今生きる私を救おう」。
「荼毘(火葬)」という重々しい題名でありながら、「今生きる私を救おう」と歌う圧倒的なギャップ。
おどろおどろしいタイトルに驚かされますが、根底にはすごく力強い生へのメッセージが隠されている気がします。
間奏のピアノソロと重なるギターソロの格好よさは圧巻で、イギリスのサイケデリックロックバンド「Hawkwind」を思い出しました。
ラストのフリージャズのような爆発力にも痺れます。
9曲目「炎 feat. Sam Gendel」
サックスで参加しているSam Gendelの演奏は、技術を見せつけるタイプではなく、アンビエントミュージックのように溶け込むスタイル。
この揺らぎがとにかく心地よく、彼のソロ作品まで漁りたくなるほどの魅力があります。
10曲目「星屑」
ピアノとコントラバス、ストリングスが織りなす優しい楽曲です。
インタビューによると、母子家庭と夜間保育園をテーマに描かれたとのこと。
街のひと隅 この子らのもとへ
引用:折坂悠太『星屑』(作詞:折坂悠太)
夜にお仕事を終えたお母さんが迎えに行く風景を想像すると、胸がギュッと締めつけられるような愛おしさを感じます。
11曲目「kohei」
リズムマシンとピアノを中心に構成された、静けさのある美しいインスト曲です。
12曲目「윤슬(ユンスル) feat. イ・ラン」
韓国のアーティストと共演した楽曲です。
「ユンスル」とは「水面に反射してキラキラと輝くさざ波」を意味する美しい韓国語とのこと。
その言葉通り、シンプルで幻想的な世界観が広がります。
イ・ランさんのハングルによる朗読と、イ・ヘジさんのチェロが優しく寄り添い、音量が小さくなりながら静かに終わりを迎えます。
13曲目「鯨」
ラストを飾るのは「鯨」。「鯱」に続いて、またも魚編の漢字がついた曲ですね。
どちらも魚類と思わせといて哺乳類。
謎めいたチョイスで、考えさせられます。
歌い出しの瞬間、「えっ、森山直太朗さん!?」と思わず耳を疑うほど発声のニュアンスがそっくりで驚かされます。
折坂さん独特の節回しが出てくるまでは本気で聴き間違えるほどで、こうした歌唱の遊び心も含めて、最後まで聴き手をワクワクさせ続けてくれます。
なぜ『心理』はこれほど心に刺さるのか?3つの魅力
1. 型から解き放たれた圧倒的な自由さ
前作『平成』のルーツ音楽的な楽しさからさらに進化し、ジャンルの枠を超えた剥き出しの表現が詰まっています。
ジャンルにとらわれない開放的な作風なので、どういうアーティストや曲からインスピレーションを得ているのかを想像する楽しみがあり、音楽を聴く喜びを実感できます。
2. コロナ禍のリアルな空気感と内省的な歌詞
日常の不安や祈りが独自の言葉選びで綴られており、聴く人の心にそっと寄り添ってくれます。
3. 聴き込むほどに味わいが増す「スルメ盤」としての奥行き
最初は難解に思える曲も、何度も再生するうちにそれぞれの深いストーリーや美しさに気づかされます。
【まとめ】折坂悠太『心理』は繰り返し聴きたい名盤
一見すると難解に思える『心理』ですが、繰り返し聴くほどに彼の底知れない表現力と優しさに包まれる名盤です。
型や文脈から解き放たれたこの唯一無二の音楽世界、ぜひアルバム1枚を通してじっくり体感してみてください!
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